8月×日
ル・ピュイ・アン・ヴレイ

 パリ・リヨン駅 Gare de Lyon よりTGV、中東部の中心都市リヨン Lyon を経てクレルモン・フェラン Clermont-Ferrand へ。更にル・ピュイ・アン・ヴレイ Le Puy en Velay 行きの鈍行列車に乗り換える。赤くかわいらしい色合いの列車は二両編成のディーゼル駆動で、もちろんエアコンなど無い。夏休みシーズンのまっただ中とあってほぼ満員の車内。しかし車窓を過ぎる景色はローカル列車の旅情を十分満足させてくれる。山々、牧草地、そして河。キャンピングカーを引いてきてカヌーを楽しむ、そんな夏の自然を楽しむ人々の姿が多い。山あいを抜け出した列車は、回り込むようにしてル・ピュイの街に着く。小さな駅。

 街の中心に聖域を戴き、ぐるりと円く広がっているル・ピュイの街。街角のあちこちから、聖堂の塔や聖母子像を望める。そして聖母の街らしく、建物の色々なところに聖母あるいは聖母子の像が祭られている。

街角の聖母像。**

 石畳の路地を分け入ってゆっくりと登ってゆく。パッと視界が開け、大聖堂へと続く登り坂へと出る。夏時間の遅い朝陽を逆光に浴びて在る大聖堂と対面。まもなく行われるはずの聖母被昇天の大祭のためなのか、青と白の聖母カラーに塗り分けられた柱や旗の飾り付け。ゆっくりと、近づくながめを楽しみながら坂を登る。

朝の大聖堂、黄色い車は郵便車。**

 正面の大きなアーチをくぐって大聖堂のなかへ。5世紀頃に建立が始まり、1096年の第一回十字軍の出発地として選ばれた際には、その集まりのために拡張がなされたという大聖堂、さすがに内は広々としている。だがロマネスク様式で窓は小さく、ステンドグラスもまだ持たないのでかなりうす暗い。それでも天井を見上げれば架かるアーチの装飾はなにかイスラムを思わせるスタイルであったり、独特である。教会の様式が洗練され統一されてゆく以前のまだ混沌をどこかに残すスタイル。

大聖堂内。***

 正面からまっすぐ奥、主祭壇には黒い聖母がある。白い大理石の祭壇にさまざまの飾りに囲まれ、赤い服を着せられた聖母は、胸に幼子を抱く母子像の姿である。その黒々とした顔は、やはりここル・ピュイもキリスト教伝播以前にケルト信仰の地であったことを思わせ、聖堂に漂うエキゾティシズムをいや増す。

主祭壇の黒い聖母。***

 この聖母子像は17世紀頃のもので、19世紀に近くの教会からこの場所に移されたもの。しかしこの聖母も「二代目」である。その前、かつて千年に渡って信仰をあつめたル・ピュイの黒い聖母子像は、フランス革命の時に焼かれてしまったのだ。記録に基づき再現されたオリジナルの聖母子像の姿は、別室、大聖堂の左手に回廊を囲むようにしてある礼拝堂にて見ることができる。やはり同じく黒く塗られ、胸に幼子を抱く姿。

礼拝堂の黒い聖母。***

 大聖堂の脇には、中庭と回廊。イスラムを思わせる二色モザイクふうのアーチ、連なる柱の均整、柱頭などに施された彫刻、聖堂自体の外観ともあいまってみごとな空間をつくる。

回廊。****

柱頭の彫刻。***

回廊脇より、鉄格子ごしに聖母子像を望む。*

回廊東側の礼拝堂、13世紀の壁画。*

大聖堂付属の博物館にて、聖母子像。*

聖域各所、四枚綴りのチケットとパンフ。*

 大聖堂から奥へ続く道を登り、ル・ピュイのシンボル、大聖母子像を目指す。1860年完成、赤銅色の鋳鉄製、身長16m体重110t。広く寄付を募り国家的行事として建立されたという。

聖堂より大聖母子像への道。*

聖母子像。*

聖母子像足元から眺める聖堂群。*

 足元の展望スペースからでも聖堂群を見渡せるが、更に空洞となっている聖母子像のなかを登ることができる。鉄板にかこまれた狭い空間は潜水艦のよう、所々に銃眼よろしく小さな窓が開いており、外を眺める仕組み。壁にはびっしりと落書きが。

聖母子像内部への入り口。*

内部、螺旋階段。**

大聖母子像より降りる道。*

道端の花。*

街角で見かけた2CV、21世紀も現役。*

*

 中心部の聖域を離れ、街外れの岩山に建つサン・ミシェル・デギュイユ礼拝堂へ歩く。

80mの岩山の上に。**

岩山への登り口、
脇にある小さな礼拝堂。**

 石段を登りに登ってたどり着く山頂の礼拝堂。中はちょっとした教室というくらいの広さしかなく、壁も天井も床も一面岩である。暗闇の中に浮かぶ柱のシルエット。静かな、祈りの部屋。

サン・ミシェル・デギュイユ礼拝堂、
外観と入り口。11世紀の建立。**

礼拝堂内。****

*

 本来この礼拝堂からはル・ピュイの街が一望でき、絶好のビューポイントのはずなのだが、あいにくの小雨模様でル・ピュイも雨に霞む。撮影をあきらめ、ゆったりと下る。

降りる道中、雨の中で。*

 にぎやかな市街に降り、公園のなかの美術館へ。聖堂の彫刻レプリカや、各種宗教美術品の展示が興味深い。しかし地域の総合博物館としての機能もあるようで、上階にゆくと虎の剥製やエジプトのミイラの展示もあり、これまた興味深い。

美術館にて、聖母子像。*

 駐車場を兼ねる市街中央の広場に出て、夕暮れの聖域を眺める。じっと時間が過ぎるのを待つ。夏時間の遅い日暮れに合わせて、広場から夜の部のプチトラン le petit train が出るのだ。チケットを買い、早めに席に座って暮れてゆく街の様子を見る。座席の小さなスピーカーから控えめな曲が流れる。陽が落ちきると夜の街に走り出すプチトラン。スピーカーからの曲は、観光案内をがなり立てる運転手のだみ声に変わった。

広場の噴水越しに。*

観光用プチトランとチケット。**

車窓よりの夜景。**

以上です。 

了 

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